林静一展

八王子市夢美術館で開催中の林静一展に行きました。
http://www.yumebi.com/
1967年「ガロ」の短編デビューから数え40周年というメモリアルな年で、今日は事前予約しておいたトークイベントも行われました。
林さん、夏目房之介さん、美術史家で明大教授の山下裕二さん、
そして「幻の名盤解放同盟湯浅学さんというちょっと珍しいメンバー。
夏目さんと湯浅さん、それぞれの文章のファンですが、
活躍のフィールドの違うお二人が同じ場でどのようなトーク
されるのか密かに興味深かったです。

活動のスタートになった東映動画時代のお話では、
当時のスタッフは色んなジャンルにアンテナをはってて、
サイボーグ009」をスタッフの一人が発見したり、
「ガロ」の発売日は70人のスタッフみんなが一斉に読むので部屋が
静かだったとか。

宮崎駿監督は林さんより年上ですが、東映動画では半年後輩に
あたり、後輩との交流の場を作ろうとした林さんは
同人マンガ誌を作ろうと呼び掛けたそうです。
「ブロック」という名のその本に林さんは結局描かなかったそうですが、
なんと宮崎さんはトトロのような姉妹とオバケが遊園地に行くという
内容の20ページの作品を描いた!
残念ながら現在この作品はどこにいったか分からないらしいけど、
当時の宮崎さんは、カムイ伝のような「革命もの」の作品と
長靴をはいた猫」のマンガ版をこども向け新聞に連載されてた時期の
狭間にあたると思われ、どんな作品だったのか大変興味深いです。
描かれた時期ははっきり分かりませんでしたが、
林さんは「太陽の王子ホルス」制作中断時に
東映動画を離れてるので、少なくともそれ以前と思われます。
詳しい事が分かる方、ぜひ教えて下さい。

4年で東映動画を去った林さんは、虫プロ「ワンダースリー」の
立ち上げに参加しながら夜は「ガロ」持ち込みマンガを描く生活をし、
その後の「赤色エレジー」の頃もアニメーションの制作会社に
在籍しながらテレビのニュースフィルムを作っておられたそうです。
当時(22才)すでにプロ意識があったので、ガロに描いた一連の作品も
意識的に実験的な作品にしたそうで、「赤色エレジー」作中の
主人公のようではなかったと強調されてたのが印象的でした。

また、アニメの師匠は月岡貞夫さんだそうで、当時「やぶにらみの暴君」が自分の意志とは別物にされた事に腹を立てたポールグリモー監督が
月岡さんにリメイクの要請をし、林さんも参加の要請を月岡さんに受けたそうだけど断ったそうとか。

夏目さんはしきりに80年代に絵柄が変わった事について聞き出そうとされてましたが、結局林さんからは明確な答えはなかったように思います。
勝手ながら自分の憶測では、こんな感じです。
1.生活環境の変化
2.時代の流れ(流行)の変化に準じた

1については、60年代から活躍され80年代作風が変わったイラストレータ長尾みのる先生が「子どもに自分の性的表現の作品を見せられない」
とおっしゃってたのが思い出されます。
近年のデジタル表現への移行されてる姿勢から見ても林さんは自己プロデュース能力に長けてるようなので、2も充分考えられると思うのですが、それをはっきりおっしゃらないのも「林さんらしさ」なのかも。

去年描かれた新作「小梅ちゃん」は、90年代中旬の無機質な絵柄から
脱却して若々しく感じられ驚きました。

また、今回の展示に合わせて発行されたカタログは、
過去の作品のかなり詳細な一覧があり資料性に富んでました。
上には触れてませんが90年代「ビッグコミックゴールド」の
「夢枕」をCGでリメイクした豪華な本も出版されてます。
今回のトークはそちらがメインだったのですが、
美術史的な観点が必要で、自分には書き記す力が及びませんでしたので
失礼します。
今回もサインをいただいてしまい、「フランスのコミックで好きな作品は?」と聞くと、「少年探偵が出てくる作品」と答えてくださいました。