映画「アキレスと亀」

予告編を見て興味を持った北野武新作映画「アキレスと亀」を見ました。
www.office-kitano.co.jp/akiresu

裕福な家庭に育ったいつも絵を描いてる少年マチスが、
父の商売の失敗によって貧しい家庭にあずけられ、
以後貧しい環境の中、成功を夢見る話。
少年、青年、中年編で役者が異なります。

武主演以前の少年、青年時代の話も割と尺が長く、
昭和初期や、1960年代の時代に絵描きがいかに
社会生活の中で生きて行くか興味を持って観賞してたのですが、
時代背景の描写も浅く、魅力に富んだ傍役キャラも
ほとんど使い捨てになってしまい物足りなさが残りました。

生涯被り続けたベレー帽とそれを渡した人物とのエピソード、
個性豊かな傍役の人物(たけしと同じクセを持つ知恵おくれの絵描き、
篠原有司男似の過激なモヒカン芸術家など)
もっとつっこんだエピソードが語られてもよかったような。

そして武が主役を演じる中年編になってからはガラっと生活感が失せ、
画商の求める作風にひたすら左右される姿は
ひょうきん族」のコントを見てるようで、
おかしいけど、そのやり取りのパターンが必要以上に多く
歳老いた売れない芸術志望者のリアリティに欠け、不満が残りました。
また、近代のアート=バスキアに傾倒した趣味も
個人的に好きになれなかった。

少年時代、自らの思うがままの天性の才能を持っていたのに
歳を重ねるにつれ時代に左右される芸術志望者の
愚かしさを描いた作品・・というテーマでありながら、
貧乏生活から遠のいた武監督による映像には
生活感の深みを感じず、道楽趣味に突き合されてしまった・・
というのが正直な感想です。

思うに、武本人が意図した映画のイメージは「売れない芸術家の話」
「ひたすら自分の絵を見せたい」といったシンプルで漠然としたもので、
それだけではまとまらないので、制作スタッフが細部の断片を
つなぎ合わせたのがこの映画の作りなのではないか?
そう感じてしまうくらいの温度差ぶり。

予告編で僕が興味を惹かれた映像も、本人発ではないため
本編では思わせぶりなものに留まってしまったのかも?
・・そんな事を思ったのでした。