宮崎駿監督の講演

神奈川近代文学館堀田善衛展に併せて開催の
宮崎駿監督の講演に行って来ました。

展示会場は、堀田さん生前の貴重な遺物、手紙などが展示された
第一部と、スタジオジブリ宮崎吾郎さん、背景の武重さんらの手による
堀田作品をもしもアニメ映画化したら?と仮定した
ポスターや、イメージボード、背景画などが多数展示されていました。
しかし、なんといっても駿監督が手掛けた対談集「時代の風音」の
水彩イラストが私には一番輝いてみえました。
その他、堀田さんが原作を手掛けた「モスラ」と
ナウシカ王蟲の画像が並べられたりもしてました(笑)

そして、待ちに待った監督の講演会。私は3列目でした。
登場第一声は、講演を引き受けた一年前は映画制作中で
てっきり天災でも起こって話がなくなると思ってた(笑)
監督の表情には予想より笑顔があり、堀田さんについて
語る以外にも世界の雑学がたくさん登場、
メモするこちらの手がとても追い付かない!
晩年直接交流もあった堀田さんと、その著作から得た
宮崎監督の作品との知られざるお話を伺えました。

堀田さんは、藤子不二雄先生と同じ富山県高岡市出身、
大学進学で上京するも、東京に馴染めず
戦時中上海に渡った後も海外を多数渡られ、
国家という概念に捕われず「どこにいても日本人」という
考えの持ち主だそうです。(司馬遼太郎とは真逆)

宮崎監督が堀田作品に出会ったのは20才位の頃、
芥川賞受賞作「広場の孤独」「漢奸」を読み
「国家」と「個人」という作中の主題に影響を受け、
自身がいざ創作に入る時点の確認として
初期衝動は正しいだろうか?と参考にされてる・・のだとか。

また、鎌倉時代方丈記と堀田さんが体験した東京大空襲
テーマにした著作「方丈記私記」は、堀田さんより直接アニメ化を
勧められ、模索した時期もあったとか。
この模索の断片が「ハウル」の戦争シーンで、
仮に監督が「方丈記私記」を映像化するなら、上記の二つの時代と
現代の空間を同時に描くものになるだろう、と。
いち時代だけを切り取った今回の吾郎さんの展示作品は全否定だそうで(笑)

そして会場より質疑応答。数人の方の質問の後、恐る恐る私も!
Q.ナウシカの水彩画も独自の世界観で大変印象深かったが、
どのように技法を習得されたのか?
A.自分のは正当な作画法ではないのであまりマネしない方が良い。
もっと世界には素晴らしい作品があるのでそういうのも
見た方が良いとされ、数名の画家の名を挙げられました。

先日のNHK特番でも美術館の作品と監督自身の作品の違いに嘆く
姿がありましたが、監督の水彩にオリジナリティを感じてる
自分にはちょっと意外。
全体的な濃淡をまず1色で塗るのですか?と再度聞くと
薄い色から塗りはじめ、部分部分で濃度があがるにつれ
ちょこちょこ塗り重ねて行く・・のだそうです。

講演終了後、出待ちをしましたが、多数取材があったようで
監督が出て来られたのは2時間以上たってから。
お疲れだったようで残念ながらサインは「勘弁して!」
でしたが、忘れられない一日となりました。
今回のお話はたくさん分からない固有名詞が登場し、
ぜひとも詳しい注釈つきで活字化願いたいところです。

柳瀬正夢展

先日、まんだらけマニア館のレジ前にあった一枚のチラシに目に留まり
店員の方に案内をいただきました。
その内容は「柳瀬正夢展」。
http://www.musabi.ac.jp/library/muse/tenrankai/kikaku/2008/08-05yanase.html

聞き覚えのない作者名だけど、レトロで奇妙なキャラクターの絵に
興味津々。しかも会場は武蔵野美大・・
平日だけど、研究者によるシンポジウムもあるそうで行って来ました。

学内はチラシの奇妙なマンガのセリフが立体看板となっており、
キャラが大きなパネルや、図書館の壁一面にはめ込まれ
すげえインパクト!

展示会は入場無料で、図録もボリュームがあるのに、カラーも豊富で
1000円と安い!

チラシの謎のマンガの正体は、柳瀬正夢の別ペンネーム、
夏川八朗名義の作品「パン太の冒険」という1934年
よみうり少年新聞連載のフルカラー作品だとか。
宍戸左行「スピード太郎」の影響を受けて描かれたと思われ、
当時新しかった宇宙や地学の描写もあり、バタ臭い雰囲気も相まって
とてもイイ感じ。1ページごとの連載ですが、残念ながら19話で未完です。

作者の柳瀬正夢さんは1900年生まれの方で、
画家、プロレタリアアート反戦マンガ家、
絵本作家、装丁家、舞台装置・・・と大変色んな側面を持った
活動をされた方だったそうです。
出身は、当時海外の玄関口でもあった福岡の門司、
反戦マンガを描いてる頃からドイツのグロッスという作家の
影響を受けていたとか。
当時の日本作家は他にも素敵な作家が多く
小野佐世男、田中比左良などの作品も今回一部展示されています。
戦前文化のクオリティーの高さをあらためて感じました。

会場は、柳瀬さんの大変幅広い活動歴を振り返ったものでしたが、
惜しくも昭和20年空襲で亡くなった45才までの仕事と知り無念!

ご本人が原稿の保存に気をつけられたそうで、
当時発見されたら即刻消却されただろう反戦関連の印刷物や、
戦前のマンガの印刷物と一部の原稿も大切に保存され、
見る事ができました。

ムサビでは遺族の方から作品を寄贈され、過去にも数回
油彩や反戦アート関連の展示を行ってきたそうですが、
今回は思いきってマンガという切り口からの展示で行われ
会場の展示設営も、赤く塗った木材を随所に置き、
キャラを大型パネルにするなど大変斬新な展示表現でした。
文化庁がマンガに対する取り組みの推奨も影響してるとか)

今日のシンポジウムでは、それぞれ異なった側面の
ベテラン研究者方や遺族の方の発言が興味深く、
それらの研究成果がより整理され、広がると良いなと感じました。

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」

http://intothewild.jp/top.html

恵まれた家庭に育った(と思われる)主人公が、大学卒業後
親からの車やキャッシュカードのプレゼント、就職を放棄し
ひたすらアラスカの大自然に向かうロードムービー
実在した話を題材に、ドキュメンタリーのような
ダイナミックな映像で自然の厳しさ、雄大さが描かれて
心奪われました。

音楽も素晴らしく劇場で見れてよかった!できればもう一度見たい。
原作も欲しくて書店を数件探しましたが見当たらず。
主人公は「スピードレーサー」の人らしいですが、
別人のよう。鬼気迫るラストシーンのために16キロも減量したとか。

旅の途中に出会う60年代のヒッピーのような人達が
90年代の時代に存在した事も驚いた。
色んな人との出会いも温かく、僕も何もかも捨てて
こんな旅に出たくなったが実行する勇気などなく・・

映画「アキレスと亀」

予告編を見て興味を持った北野武新作映画「アキレスと亀」を見ました。
www.office-kitano.co.jp/akiresu

裕福な家庭に育ったいつも絵を描いてる少年マチスが、
父の商売の失敗によって貧しい家庭にあずけられ、
以後貧しい環境の中、成功を夢見る話。
少年、青年、中年編で役者が異なります。

武主演以前の少年、青年時代の話も割と尺が長く、
昭和初期や、1960年代の時代に絵描きがいかに
社会生活の中で生きて行くか興味を持って観賞してたのですが、
時代背景の描写も浅く、魅力に富んだ傍役キャラも
ほとんど使い捨てになってしまい物足りなさが残りました。

生涯被り続けたベレー帽とそれを渡した人物とのエピソード、
個性豊かな傍役の人物(たけしと同じクセを持つ知恵おくれの絵描き、
篠原有司男似の過激なモヒカン芸術家など)
もっとつっこんだエピソードが語られてもよかったような。

そして武が主役を演じる中年編になってからはガラっと生活感が失せ、
画商の求める作風にひたすら左右される姿は
ひょうきん族」のコントを見てるようで、
おかしいけど、そのやり取りのパターンが必要以上に多く
歳老いた売れない芸術志望者のリアリティに欠け、不満が残りました。
また、近代のアート=バスキアに傾倒した趣味も
個人的に好きになれなかった。

少年時代、自らの思うがままの天性の才能を持っていたのに
歳を重ねるにつれ時代に左右される芸術志望者の
愚かしさを描いた作品・・というテーマでありながら、
貧乏生活から遠のいた武監督による映像には
生活感の深みを感じず、道楽趣味に突き合されてしまった・・
というのが正直な感想です。

思うに、武本人が意図した映画のイメージは「売れない芸術家の話」
「ひたすら自分の絵を見せたい」といったシンプルで漠然としたもので、
それだけではまとまらないので、制作スタッフが細部の断片を
つなぎ合わせたのがこの映画の作りなのではないか?
そう感じてしまうくらいの温度差ぶり。

予告編で僕が興味を惹かれた映像も、本人発ではないため
本編では思わせぶりなものに留まってしまったのかも?
・・そんな事を思ったのでした。

上田トシコ先生について語るイベント

杉並アニメミュージアムにて先日、先頃お亡くなりになった
上田トシコ先生のトークイベントがあり、行って来ました。

会場には先生を偲ぶ著名人の方の色紙も多数展示されており
当時の読者だったという女優・木ノ実ナナさんや浅丘ルリ子さん、
マンガ界からはちばてつや先生、藤子A先生、水野英子先生、
手塚プロ松谷社長など豪華な方々50名くらいの色紙が
ズラリと並んでおり圧倒された。
さいとう・たかを先生の色紙は珍しいフイチンさんの絵とゴルゴの
・・目だけ(笑)

トークイベントはちば先生、わたなべまさこ先生、松本かつぢ先生の
妹弟子だったというイラストレータ田村セツコ先生、そして
鈴木伸一館長が壇上にてトークだったが、会場にいらしてた
「少女クラブ」編集の丸山昭さん、当時フイチンさん担当だった
女性編集者の方、水野英子先生、バロン吉元先生、しのだひでお先生、
松谷社長、ウノカマキリさん、弥生美術館学芸員の方、
そして上田先生のお師匠・松本かつぢ先生のご子息様も
参加席から先生の思い出を語っておられた。

戦時中に上田先生がいたハルピンはロシア人が多く
異文化の交流が盛んで国際的な土地柄であったそうだ。
背が高く、シャレたパイプでタバコを燻らす姿はカッコよく、
当時、男社会の風潮の強かったマンガ界で、女流マンガ家の
立場を考えておられた先人といった発言が多かった。
若き日のちば先生たちはマンガ家としてしっかりしなさいと
先輩だった上田先生に言われる事もあったとか。

シャープで動きのある作風は近年アニメにもなり、
完成度も高かったが、上田先生から試写の段階でダメ出しが
入り、作品にポリシーのある先生はどうしても譲られなかったという
一面もあったようだ。

トークの最後の質議応答で、上田先生にとって
その後の少女マンガの世界観はどのように目に映っていたのか
興味があり挙手しようと思ったが、とても勇気が出なかった。
あらためて上田先生作品を読み返してみたいと思う。

また、会場の記念館では、上記とは別におとぎプロと虫プロ
展示も行われており、貴重な当時の資料が見れた。
おとぎプロから発行された会誌はデザインがシャレてて
個人的にかなり興味深かった。

日本発の連続テレビアニメ「インスタントヒストリー」も
会場で上映されているのでぜひこの機会を逃さないようにしたい。

Go to DMC

今日は映画「デトロイト・メタル・シティ」に行ってきた。
主人公に焦点を当てた構成で楽しめた。
のっけのオープニング動画もイイ出来だった。
終盤、どう終着させるのか難しそう・・と思ったら
・・・になってしまっていた。

コアな音楽ネタを感じさせつつ、一般観客層向けに
モチーフの落とし所をつけていく難しさを感じた。
(KISSファンの野宮真貴さんをワンシーンでも・・
とか思うとマニアックな方向にいってしまいそう)

マツケン松雪泰子ロバート秋山がナイスキャストだった。
松雪さんは曽我町子に扮して特撮でもいけそうw
クラウザーに変異する動機が原作ではいまいち分かりにくかったが、
映画ではそれなりに見れるようになっていた。

加藤ローサ役の人物は、もう少しあっさり風で
ややマニアックな嗜好がありそうなイメージが自分にはあった。
(具体的な人物は思い当たらない・・)


画像は96年松雪泰子カレンダー
(信藤さんデザイン 故・稲葉ゲンさん写真)

ウシジマくん

闇金ウシジマくん真鍋昌平
http://www.s-book.com/plsql/com2_series?tid=20059
先日、ブックオフにて立ち読みして数冊購入し、
はまってしまい、結局12冊新刊も含めて購入。

主人公ウシジマは狂言廻し的存在で、
むしろ各章ごとの登場人物の世界観が、
どこかリアリティがあって怖い。

互いに本名も分からないゲイの狭い仲間内の世界の表裏。
カメラマン志望、優越感を感じる相手しか付き合わない
雇われ店長、36才ジャニーズおっかけ、子ども虐待容疑の自称画家・・
緊張感と、トボけたキャラが絶妙(3〜4巻)

パーティーを主催するギャル男は、たくさんの人脈を
駆使してるように見えるが、心から信頼関係を築ける人は
いなかった。対人関係に、つい利害関係を計算してしまう
オトナの世界は怖い!突破口はどこに?(4〜5巻)

外見は不細工だけど、精神面で客を満足させるNO.1風俗嬢の
唯一信頼出来るものは金。三人の風俗嬢と、ろくでもない男たちの
異常な世界(5〜7巻)

ギャンブルに依存し破滅して行く35才フリーター男、
そして母の株の失敗で一家は財産を失い、
親離れできぬまま家を出た男は日雇い派遣で過ごすも
浮浪者生活まで追い込まれる。
すべてを失い、ようやく最終的に大事なものを取り戻せた。
個人的に一番グっときたエピソード(7〜9巻)

医療機具会社のさえない33才営業マンは、仕事先や上司のストレス、
冷えきった妻との関係で精神的に追い詰められた上、
旧友の借金まで背負わさそうになるが、休養を経て
昔の写真に映った輝かしかった頃の表情で自分を取り戻す。
療養中に取引先に存在感を買われていた事が理解され
復帰を果たす。(10〜12巻)

登場人物ひとりずつに破天荒なドラマがあり、
色々考えられるものがあった。願わくば自分がこの作品に
登場するような窮地に陥らないよう祈るばかり。
浪費グセや欲を押さえる事ができない人は要注意・・